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イリス

その日は冬のただ中で、空気はとても冷たく刺すようだった。
待ち合わせの時間よりも先に二人の友達が着いていたから、たとえ時間通りでも僕が遅刻した格好だ。前から予定を決めていたのに、前の日の晩、ずっと遊び歩いていた僕は、お世辞にも準備万端とは言えない見てくれで、きっと友達は不信に思っただろうな。とても大切な友達なのに、この日のことを僕はずっと楽しみにしていたのに。
始終僕はめったな事をしないように気をつけようって、歩きながらそんな事ばかり考えていた。だけどどうしたってフラフラと二人のもとから離れたり、何度もつまずいたりして、全然落ち着きがなかったよ。
楽しい時間は誰にでも平等に短く感じるものって、どこかで聞いたとおりに、この日はあっという間に終わってしまって、「用事も済んだからそろそろ帰ろう」なんて話になった。きっと、僕がぼんやりしていた間に、いろいろな出来事があったんだろうけど、ぼんやりしているから、それを全部見逃しちゃったんだろうな。その分だけ余計に楽しい時間がもっと短くなってしまったみたいで、なんだか自分がとってもいやな奴に思えて仕方がない。それは今でもそう思うよ。
帰り道、近くに見える水上バスの看板を見ながら、僕はここから電車ではなくて、みんなと船に乗って帰れたらどんなに楽しい事だろうって思ってたんだ。ただ、1日中ずっとぼんやりしていた僕には「船でも帰れるんだよ」って事を話の隙間にはさむぐらいしかできなくて、もっとさみしい気分になっちゃったんだ。
でもね、そんな風にもじもじしている僕の姿を見た友達は、「みんなと船に乗りたい」って言い出す機会を僕にくれたんだ。友達にそこまで面倒をみてもらってる僕は本当にバカだなって思ったけど、それでもすごくうれしかった。
今にも出発しそうな船になんとか乗り込むと、窓際の椅子は他のお客さんでいっぱいだった。僕らは中央にある手すりみたいなベンチに腰掛けたんだけど、端に座ろうとした僕を友達は、僕が真ん中になるように座らせてくれた。
じわじわと動き出す船の中、誰もが外にながれる景色を窓から眺めていたのに、途中で屋上に出られるというアナウンスが流れると、ぱらぱらと席を立ちはじめる。さっきまで満席だった船室が急にがらんとしてしまった。どんなに寒くたって、船に乗ったらデッキや屋上で景色を眺めてみたいものなんだ。
外の空気も風もとても冷たかったけど、通りすぎてゆく景色を友達と並んで観ていたら、そんな事はすっかり忘れてしまってた。ただ屋上の手すりの高さだけが、僕はどうしても気になってしまって、こんなに低い手すりじゃ誰かが落っこちてしまわないかと、ひどく心配になってしまった。備え付けの救命胴衣や浮き輪の場所を確認して、僕は船が立てる波の泡をずっと眺めていた。


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